救国の英雄、ジャンヌ・ダルクの幼年期を描いた映画『ジャネット』を観てきました。この夏にフランス語学習を始めたので、フランス語の勉強のため…というのが表向きの理由ですが、「ジャンヌダルクがヘビメタに合わせてヘドバンする映画」という前評判に興味をそそられたのが正直なところです。
以下、印象に残ったシーンをネタバレありで書いています。
印象的なシーン
ヘドバンする修道女たち
舞台は1425年、百年戦争のまっただなか。小さな村ドン・レミで育ったジャネット(幼き日のジャンヌ・ダルク)は、戦争にかこつけたイギリス兵の略奪や、飢えに苦しむ子供たちを見て心を痛めていました。神様がいるというのなら、なぜ民は戦禍で苦しまねばならないのか?ジャネットは村の修道女であるマダム・ジェルヴェーズに救いを求めることに決めました。
我が身が炎に焼かれるとしても、祖国で苦しむ民を救いたい…ジャネットが心情を歌にのせていると、どこからともなくマダム・ジェルヴェーズ達が現れます。
※ちなみにこの映画はミュージカル仕立てです。
そして三人でヘドバンします。
これは異端だろ。
即刻火刑にしてしまえ!!!
…あまりに異端すぎて、ついつい異端審問官側に肩入れしてしまいました。
この場面に異端審問官がいたら、ジャンヌ・ダルクが挙兵する前にお話が終わってしまうところでした。危ない危ない。
一応、歌を通して自己犠牲について教義の議論がなされていたのですが、修道女二人のシュールで軽快なステップのせいで全く頭に入りませんでした。
映画館で隣に座っていた真面目そうなおじさまも、肩を震わせて笑いを堪えていました。
何なんだこの映画は!
お告げ
さて。
「救国のためなら地獄の炎に焼かれてもいいだなんて願うべきではない。そんなことはキリストも望まない」…マダム・ジェルヴェーズの答えはジャネットを納得させるものではありませんでした。どうすれば祖国フランスの民は救われるのか…ついにジャネットは「声」を聞きます。
自分で書いていても意味が分からないのですが、不思議な木の前に突如として大天使ミカエル・聖カタリナ・聖マルグリットが現れ、シュールなダンスを無言で踊ります。
しかしジャンヌには分かります。
天使と聖女たちは、ジャンヌに「武器をとれ、指揮官となりフランスを導け」と告げているのです!!!
…
……
………
この場にツッコミ役がいてほしいと願ったのは、私だけではないはずだ。
ブリッジフレンド
さて、ジャンヌはこうして(?)お告げを授かったものの、ある理由があり、数年間は挙兵に踏み切れないままでいました。
物語の舞台は数年後へと移ります。
のっけからブリッジで友達が現れます。
このあと、何のツッコミもないまま最新の戦況についての会話が進行します。
ドン・レミには異端者しか住んでいないようです。異端審問官は村ごと焼き討ちにした方がいいんじゃないか?
ブリッジの理由
でも、前述のブリッジにも一応理由はあると思うのです。
このあと、ついに挙兵を決意したジャネットが、天を仰ぎみようとするあまりブリッジのポーズをとる場面があります。その場に居合わせた親戚の男はジャネットに「お祈りをしているの?」と問いかけます。
たしかに、天を仰いで仰いで一周(半周?)まわってブリッジに至った経緯を踏まえると、このポーズは極限まで神に祈っていることを示すとも考えられます。
いきなりブリッジで現れた友人も、終わることのない戦禍に苛まれ、救いを求めるあまりこのポーズになってしまったのかもしれません。
「いっそフランスなんてイギリスに負けてしまえばいい。そうすれば戦争が終わるから。」友人の意見は切実であると同時に、自身のフランス人としての立場に反する意見でもあります。
ジャンヌは祖国を救うため武器をとることを決意しますが、彼女が一介の少女にすぎなかったことを考えると、これもイカれたアイディアだったと言えるでしょう。
天を仰ぎ見るあまりブリッジしてしまった倒錯しているポーズは、神に祈るあまり突飛な考えにたどり着いた彼女たちを表しているののかもしれません。
ヘドバンの理由
神のお告げを聞き、自ら旗をとりフランスを救った少女―
物語としてはロマンチックで夢がありますが、現代を生きる我々からすると、眉唾に感じてしまうのではないでしょうか。
ジャンヌが聞いたお告げの声は、少なくとも彼女にとっては確固とした現実だったのでしょう。また、彼女はお告げに従ってオルレアン解放やシャルル7世の戴冠といった結果も出しています。しかし、現代を生きる我々は、超常現象を簡単に信じることができません。もし現代に神のお告げを聞いたと主張する子供が現れたとしても、本気で扱われることはないでしょう。
ジャンヌの周りでは、現実と空想、正当と異端の線引きがゆらゆらと蠢いているように思われます。軽快でクセになるミュージックや突然のヘドバンは、こうした境界の揺らめきを表彰しているのかもしれません。面白い試みだと思いました。
『ジャンヌ』
続編の『ジャンヌ』も同時公開されていました。ヘビメタもヘドバンも息をひそめ、シリアスな雰囲気に様変わりしています。ジャンヌの敗戦、捕縛、そして処刑までを描いています。(オルレアン解放のような、派手な合戦やジャンヌの全盛期は『ジャネット』『ジャンヌ』では描かれていません)
フランス軍の士気を高めるために略奪を推奨しろと提案するジル・ド・レや、ジャンヌの粗探しをする審問官たちに、ジャンヌが毅然と反論する様子がとても印象的でした。
ただ、私には少しシリアスすぎたかも…。『ジャネット』の、次何が起こるか予想できないワクワク感の方が私は好きでした。それぞれ毛色がかなり異なるので、好みが分かれると思います。
関連図書『ジャンヌ・ダルク 超異端の聖女』
ジャンヌ・ダルクについてより知るため、映画と合わせてこちらの書籍も読んでみました。
映画では突飛なシーンが多すぎて、何が史実で何が演出なのかよく分からなかったので、真面目な書籍でもジャンヌの生涯を追えたことはよかったです。
大天使ミカエルと聖女カタリナ、聖女マルグリットの三人がジャンヌにお告げをしたというのは史実だそうです。また、ドン・レミには「妖精の木」と呼ばれる古いブナの木があったそうです。ミカエルたちが現れた場所にはうねるような大木がありましたが、妖精の木をイメージしていたのかもしれません。
また、ジャンヌ・ダルクの先駆者にあたる同時代の有名な女性についても知ることができました。個人的には夫を殺した祖国フランスへの復讐心から海賊となったジャンヌ・ド・ベルヴィルが気になりました。
なお、ジャンヌが変な聖女と一緒にヘドバンしたのは史実ではないようです。残念。
最後に『ジャネット』『ジャンヌ』の予告編を張り付けておきます。気になった人は劇場へレッツゴーです。