先日、渋谷のBunkamuraで開かれているロマンティック・ロシア展に行ってきました。国立トレチャコフ美術館が所蔵する絵画の展覧会で、クラムスコイの『忘れえぬ人』が一番お目玉作品となっています。展示場に行くと、まずはロシアの四季に関する絵を春から冬まで鑑賞し、その後肖像画と子供を描いた絵を見ることができます。
シベリアのタイガ
今回、一番印象的だったのは夏のロシアの針葉樹林を描いた絵画群です。シーシキンの、針葉樹林で遊ぶ熊たちを描いた作品や、木漏れ日の中を散歩する男女を描いたものが記憶に残っています。
私は普段、あまり風景画をよく見る方ではありません。展覧会で風景画のコーナーがあっても、「ふーん、綺麗だね」で通り過ぎてしまう方です。
でも、今回は違いました。それはきっと、昨年の夏にロシアを旅行した思い出があったから。シベリア鉄道でイルクーツクからモスクワまで旅した時、車窓から見た風景が、この展覧会の中にありました。
写真よりもずっとリアル
不思議だったのは、展覧会の絵画が、私が旅の途中で撮った写真よりもずっと思い出の中の風景に近かったこと。
私の写撮影技術の低さも大きな理由ではあるのですが、シベリア鉄道で車窓からの風景を写そうとどれだけシャッターを切っても、こんな写真しか撮れませんでした。本当はもっと雄大なのに。本当はもっと奥行きがあって、森の奥に何がいるんだろう、熊はいるかなって、すごくワクワクできるのに。電車からの風景を撮るのは苦手なので、自分の想いを十分にフィルムに乗せることができなくて、少し残念に思ったのを覚えています。
でも、あの時胸の中にあった私の気持ちが、展覧会の絵にはありました。
旅の中で私が見ていたのは、実物そのままの景色ではなく、イメージで重ね塗りした風景だったようです。絵画だと自分の持つイメージを自由に表現できるのがいいですね。現実をいかに切り取るかに苦心するカメラも、どのようなイメージを乗せて描くか工夫する絵画も、それぞれ違って、それぞれ素敵です。
当たり前ですが、旅をすれば、ただ地名を知っているだけの場所が、思い出の場所に変わります。これからも、もっともっと旅をしたい。思い出の土地でいっぱいの地図を、私の中に作っていきたい。昨年の夏休みを思い出して、ふと懐かしくなった展覧会でした。